プロ将棋棋士の中座八段が引退することになり、最後の対局相手が野月八段で、二人のつながりについて、記載している記事を見た。中座八段は、後手横歩取り8五飛戦法の創始者であり、野月八段はその戦法の優秀性を早い段階で見抜き、この戦法の育ての親というような紹介の仕方であった。チェス、将棋、囲碁というボードゲームは先手の方が有利であり、統計上もその点は明らかになっている。そのため、囲碁では「コミ」と言って、先手の方にハンデがつけられる。例えば、囲碁で「5目半コミ」と言えば、先手が後手よりも5目半多く目の数を確保しなければならない。半目という目はないので、実際には先手は後手よりも6目以上目の数を確保していなければ、勝負に勝つことはできないということになる。将棋の場合は、他のゲームよりも先手の勝率が低く、後手と大きな差はないということで、現段階ではハンデはないということになっている。それでも、毎年、先手、後手の勝率を見ると先手の方が勝率が高い。ところが、かれこれ20年くらい前になるであろうが、プロ将棋棋士間での先手、後手が勝率が逆転した年がある。2年間程度だと記憶しているが、その2年間は8五飛戦法が猛威を振るった年である。先手の勝率よりも後手の勝率を上回らせるというのは大変なことで、これだけを見ても8五飛戦法の優秀性が分かる。この8五飛戦法を切り札にして、名人位を獲得したのが丸山忠久九段である。丸山九段は、角換わり腰掛け銀と8五飛戦法をひっさげて、名人に挑戦し、名人位を獲得したのである。丸山名人の時代にある対局で、後手の丸山名人が、8五戦法で戦い、桂馬の高跳び歩の餌食という格言を地で行くような桂の飛び出しを行い、最終的には、この桂の飛び出しが勝因になったということを覚えている。8五飛戦法は、先手の対策が進み、現段階では下火になっているようである。しかし、将棋の戦法は温故知新。いずれの日にか、再評価される時代が来るかもしれない。