中国の歴史

この文章を書いている段階で、中華人民共和国の人民解放軍が台湾周囲での軍事演習を行うという報道がなされている。台湾の蔡英文総統が米国を訪問し、米国下院議長と会談したことに対する報復と考えられているようである。その以前に、台湾の国民党の前主席が中国からの招待で中国訪問をしているというニュースも流れ、これは、蔡英文総統の米国訪問に対する牽制目的であるかのような報道であった。歴史的には、国民党と中国共産党とは不倶戴天の敵であるはずなのにと思うが、年月の経過は不思議なことが起こすものである。このような台湾をめぐる不穏な情勢のせいではないが、最近、宮城谷昌光氏の書いた「草原の風」という本を読んでいる。以前に、陳舜臣氏の書いた「小説 十八史略」という本を読んで以来読んでいなかったのが中国歴史小説であった。「草原の風」は、後漢の建国者光武帝を主人公にしている小説である。私のイメージであるが、光武帝は、中国の他の王朝の建国者に比較して影が薄いように感じていた。つまり、それだけ個性が乏しいように思っていたのである。しかし、「草原の風」を読んでいると、私のイメージが間違っていたようである。光武帝の周りには、不思議なことに俊才が集まってくる。光武帝は、その俊才たちの才を見抜き、伸ばし、生かしていく。もちろん、光武帝自身、軍事的、政治的才腕を振るい、徳のあるところを示す。それがますます周囲に俊才を集めることになるというわけであるが、著者の宮城谷昌光氏は、光武帝の不思議な徳を描こうとしたのかと思えるところもある。「草原の風」で描かれている光武帝像をみると、北宋の建国者趙匡胤と共通しているように思える。翻って、我が国で同じような人物がいるのかと思うと、かろうじて上杉謙信が義に厚いという評判が似ているようにも思える。ところで、蔡英文総統の米国訪問に対する中国の反応は、過剰反応だろう。習近平総書記が指示しているのか、中国人民解放軍の軍部が強硬に主張しているのか分からないが、台湾併合に武力を用いることになれば、単に荒廃した台湾島が手に入るだけで、その後の復興には莫大な費用が必要になる。荒廃した台湾島を入手した後、荒廃したままにするということになれば、中国国内の心ある人々からすれば、大義はなかったということになろう。そうなれば、中国共産党の支配にも正当性に疑問が生じる。支配とは力による抑圧だけでは続かないものである。支配するものと支配されるものとの間で、支配されるものの側に支配者による支配の正当性が認められなければ、いずれ、その支配は崩壊の道をたどる。中国の歴史が如実に示している。中国共産党が、過去の王朝のように、長くとも300年続けばいいと思っているのであったとしても、支配される側に支配の正当性を納得させることができなければ、長くは続かない。中国共産党が、中国の歴史が示す事実に早く気づいてほしいものである。