背筋が凍る話

中国大陸を制覇している政権と日本の政権が交流を開始した時期については、明確ではないようであるが、記録に残るところでは西暦1世紀ころに成立した後漢帝国の時代からのようである。その後に、有名な魏志倭人伝の時代、つまり、日本では卑弥呼の時代ということになるようである。卑弥呼の使者が、華北を制覇していた曹魏の都まで赴けたのは、現在の北京のある地方から朝鮮半島北西部を握っていた公孫氏が曹魏によって滅ぼされ、その結果として、朝鮮半島から曹魏の都まで直行できることになったからということが理由だったようである。この後には、有名な倭の五王の時代があり、中国大陸と日本の政権とは、穏やかな交流を続けていたと考えられる。それが一変した時期があった。岡山県に「鬼ノ城」と書いて「キノジョウ」とよむ山城がある。朝鮮式山城と考えられており、このような朝鮮式山城が設置された理由は、どうも、大陸中国からの侵攻を警戒したためであるらしい。大陸中国からの侵攻を警戒しなければならなくなった時期とは、白村江の戦いで、日本の天智天皇政権軍が、唐・新羅連合軍に敗れてからの時期だったように思われる。ところが、唐と新羅が仲違いし、新羅が、朝鮮半島統一のため唐と戦うことになったため、大陸中国からの侵攻を恐れる必要がなくなり、いつしか、鬼ノ城のことも忘れ去られることになったようである。歴史を振り返ってみると、本当に、日本が大陸中国からの侵攻を恐れる必要があったのは、どうも、白村江の戦いの後の一時期と元寇のころだけで、それ以外の時期は、日本は大陸中国からの侵攻を恐れる必要はなかったようである。その理由は、おそらくは、中国大陸を制覇した歴代王朝が、基本的には海を隔てた日本にまで勢力を伸ばす必要性を感じず、民間の貿易、政府間では朝貢貿易だけで満足し、日本の政権が、顔を立てておけば問題はなかったからのようである。ところが、最近、テレビの報道番組に出ていた、以前には日本の中国大使を務め、現在は大学の教授をしている方の解説を聞いて、思わず、背筋が凍る話だと思ったことがある。その話は、米国のトランプ大統領政権と中国の習総書記政権とがディールを行うもので、そのディールがスモールディールかラージディールかで、日本に及ぼす影響は大きく異なるが、それは短期的なものとなるから、日本は中長期的な視野で戦略を練るべきというものであった。私が思ったのは、極端な話、太平洋をどこかで西と東にわけ、西は中国、東は米国の勢力圏とみて、お互いに手を出さないというディールでもされるのかということでった。そうなれば、日本は中国の勢力圏の範囲となりかねず、大陸中国との武力衝突ということも考えられるところである。日本人は、中長期的視野で戦略を練るというのは苦手なように思う。中長期的視野で考えるということは、幾つものシナリオを考え、どのシナリオの場合にはどのような対策を採るのか、というケースをいくつも用意する必要がある。しかし、日本人は、政府がそんなに幾つものケースを用意して対応策を練るということをしていると、分かりやすく一つに絞ってくれといい出しかねないし、情報についても、自分たちに最も都合のいいものしか信じないということも出てきそうなところがある。今のまま、中国が軍事予算を拡張し続けられるとは思えない。しかし、中国が軍事拡張を続けるならば、日本も、相応の軍事拡張をしていかなければならくなる。それでも、中国の軍拡がいつころまで継続されるのかというシナリオを考えていないと、永遠に軍事拡張をするかのようなムードになり、国論が二分される可能性がある。中国の王朝は長命を保った王朝でも、建国から約100年が興隆期、全盛期である。この期間を経過すると、急に外部に対する興味を失っていく。現在の中国共産党体制も一つの王朝と考えている。とすると、2049年ころが建国100年であり、この時期までが興隆期、全盛期ということになろう。この時期が過ぎ、大陸中国が外部に対する興味を失うまで、武力衝突を招くことなく、慎重に対応していく。おそらく、それがベストシナリオであろう。そのためには、どうしていくか知恵を絞っていく必要がある。