ヤメ検 丹前健の事件録

友人の弁護士から、著書をもらった。友人は、最高検検事まで勤め上げて退官した元検事である。その元検事の弁護士から贈られた著書というのが「ヤメ検 丹前健の事件録」である。ヤメ検という言葉が人口に膾炙するようになってかなり経つように思う。そのヤメ検の弁護士を主人公にしたのが、「ヤメ検 丹前健の事件録」である。といっても、本は主人公が弁護士になった後の事件(題名「「真相」中編)1編と主人公の検事時代の事件を取り扱った短編とで成り立っている。題名からも分かるように、推理小説構成となっており、主人公が丹前健である。弁護士を探偵役にした推理小説というのは、現実の弁護士業務からすると無理があると思っており、また、弁護士が捜査に首を突っ込むという設定というのも無理があるように思うことが多かった。その点、この「ヤメ検 丹前健の事件録」は説得力のある設定になっているように思った。ネタバレにならない程度にと思うが、大雑把なストーリーは、検事を退官して弁護士となった丹前健の事務所に奇怪な電話があり、その直後に、丹前健が奈良地検時代に起訴し、有罪となった殺人事件の犯人が出所していたところ、その元犯人が心中するという事件が起き、それに違和感を持った丹前健が調べ始め、思わぬ真実に行き着くというものである。弁護士として調べる範囲には当然に限界があるが、著者は、舞台を奈良地検という比較的小人数の検察庁に設定し、主人公の検事時代の立会事務官が協力してくれ、しかも、主人公の親しい現職の検事が三席検事という奈良地検のナンバー3で、同検事が元犯人の心中に違和感を感じ、捜査担当者になるという設定で、ヤメ検の弁護士が捜査に関与することに無理を感じさせないようにしている。

また、私は、推理小説家の故都筑道夫氏が好きで、若い頃、古書店を回って、同氏の推理小説評論でる「黄色い部屋はいかに改装されたか」とか「死体を無事に消すまで」を買って読んだことがあったが、その中で、都筑道夫氏は推理小説には3つの要素が必要であると言われていた。その3つの要素全てを覚えているわけではなく、記憶で書いているが、1つは「冒頭の不合理な謎の提示」、2つめが「謎の合理的な解決」、3つめが確か「読者に対して解決部分までに全ての証拠を提示すること」であったように思う。「ヤメ検 丹前健の事件録」では、3つの要素がそろっていた。文章の方は、どうしても、法律実務家のためか、センセーショナルな書き方ではなく、どちらかというと淡々とした感じを受けるものとなっているが、じっくりと読むには向いているように思う。興味を持った方はご一読を。尚、発売元は幻冬舎。